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「やあ、おいでなさい。わたし、相沢です」
練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。
「もう帰つたんかね」
「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」
紛まがふことなく、それは神原喜作だつた。
「さうだ」
と、房一はほつとした面持になつて云つた。
そして、食卓に突き立てたまゝになつている短刀を、火箸か何かつかむやうな、無造作な素速い手つきで抜きとると、鞘におさめて腹帯の内側へ入れながら、
「さうよ。てめえはその大将だらう」
「おい、お茶を入れてくれ」
閑静で温泉もあるという家は売家だから住めない。貸家の方はたいがい山の上の温泉のない家で、ぜひ住んでくれないかと云ってきた空別荘も、景勝閑静な山荘であったが、温泉がなかった。
今さつきまで誰もいなかつた通りの、ずつと先きの方から黒い人影が歩いて来るのである。袴をはいて小さな風呂敷包か何かを抱へている、そのやはり背高な、直立したまま急ぎ足に歩く恰好はまぎれもない町役場の書記の今泉だつた。
並んで立つと、いきなり